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最高裁判所第二小法廷 昭和31年(さ)5号 判決 1956年11月30日

主文

原略式命令を破棄する。

本件公訴中道路交通取締法違反に関する部分を棄却する。

被告人を罰金三千円に処する。

この罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

関係記録を調査するに、被告人は法令に定められた運転の資格を持たないで昭和三〇年三月二八日午後一時三〇分頃熊本市東外坪井町道路において熊第一七六七号の自動二輪車を運転して無謀な操縦をしたものであるとの犯罪事実につき、当初昭和三〇年一一月一一日熊本区検察庁検察官より熊本簡易裁判所に起訴略式命令を請求され、これに対し同裁判所は、同年一二月一日右起訴事実と同一の犯罪事実を認定し、道路交通取締法違反として被告人を罰金二千円に処する旨の略式命令をなし、この裁判は同年同月二三日被告人に送達され、その後正式裁判請求期間の経過により同三一年一月七日確定したのであるが、右裁判がなされた後未だその確定しない前たる同三〇年一二月八日熊本区検察庁検察官より再び右同一事実につき、これと業務上過失傷害の犯罪事実とを併合して共に熊本簡易裁判所に起訴略式命令を請求され、これに対し同裁判所は、同年同月一四日右起訴事実と同一の犯罪事実を認定し、道路交通取締法違反、業務上過失傷害罪として被告人を罰金五千円に処する旨の略式命令をなし、この裁判は同三一年一月二八日被告人に送達され、その後正式裁判請求期間の経過により同年二月一二日確定した事実を認めることができる。

してみると、右後の起訴略式命令の請求を受けた熊本簡易裁判所は、その公訴事実中道路交通取締法違反の事実につき既に公訴提起されているのであるから、すべからく刑訴四六三条により通常の規定に従って審判をした上、右二重起訴の部分については同三三八条三号により判決を以て公訴を棄却し、その余の業務上過失傷害の事実についてのみ有罪の言渡をすべきであったといわなければならない。しかるに、そのことなく前記の如く、道路交通取締法違反及び業務上過失傷害の事実につきそれぞれ有罪の認定をし、刑法四五条前段の併合罪として同四八条二項を適用して被告人を罰金五千円に処する旨の略式命令をしたため、同一事実について二個の裁判がなされ、相前後して確定を見るに至った結果となったのである。従って後になされた原略式命令は違法であり、かつ、被告人に不利益であることが明らかである。

よって刑訴四五八条一号により原略式命令を破棄し、その公訴事実中道路交通取締法違反の事実につき公訴を棄却し、原略式命令によって確定された業務上過失傷害の事実につき刑法二一一条、罰金等臨時措置法二条、三条、刑法一八条を適用して被告人を罰金三千円に処し、この罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置するとし、主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田 克)

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